中部地方


ダム水没により賑わいが失われ秘境駅化。その駅名のおかげでその存在を全国に知らしめた

10.7.31執筆


人はどうして“あやかり”が好きなのだろうか…


近年2面あったホームの片方が閉鎖。棒線駅となった


地元の人とファンが共に守る待合室。駅ノートも置いてある

 鉄道ファンの間で「秘境駅中の秘境駅」と称される小和田駅。確かに全国最強の秘境駅のひとつと言って間違いないだろう。天竜川の流れが間近で、国道は対岸にあるが渡る橋もない。人家がないことは言うまでもなく、廃屋が1つだけ。車で到達することは不可能で、一番近い集落もここから歩いて1時間という。

 ここがただの秘境駅であればこんなにまで有名になることはなかったはずだ。鉄道ファンのみならず全国にこの駅の名を知らしめた出来事、それは皇太子殿下と皇太子妃・雅子さまのご成婚のときである。そう、雅子さまの旧姓は「小和田」なのだ。この慶事にあやかり、同じ名前の駅として一躍話題に。全国から大勢の人が訪れ、中には駅で“あやかり結婚式”を挙げる新郎新婦もあった。
 以後、小和田は秘境駅であるとともに「恋成就駅」として知られるようになったのだ。駅から少し川に向かって降りると「お二人の幸せを呼ぶ椅子」なる二人掛けの椅子もある。それも背もたれに大きくの字が。とても一人で訪問した私に座れるものではない(汗)。こんな変なものがある駅に、恋愛成就の保証などないに等しいですな…。

 駅は、静岡・愛知・長野の3県境にほど近い場所にある谷底の駅だ。ダム建設により、駅周辺の集落が水没、小和田は秘境駅となった。駅の利用者は現在1組の夫婦のみといわれている。以前は対向式ホーム2面2線だった駅も、片方の線路がはがされ棒線駅となってしまった。
 かつては普通の駅だったゆえ、駅舎も立派に建っており有人駅だった頃の名残も随所に残る。どこから持ってきたのか待合室内に事務机が一つ置かれ、駅ノートの束があった。あまりに待ち時間が長いため、筆者もいろいろなことを書き込んでおく。パラパラとページをめくってみると、日本全駅下車を達成した横見浩彦さんの書き込みもあった。
 こんな秘境駅が、荒れることなくきちんと整備されていることに感激していると、地域の管理をしているという一人の年配の方が登ってこられた。寒くて夜には水道管が凍結してしまうため、毎日お手洗いの水洗の開閉をしているのだという。その後待合室のベンチに私と隣り合って座り、この地域のことや、駅や飯田線の歴史等々を語ってくださった。
 こんなにまでさまざまな人に支えられている秘境駅も全国でここだけだろう。筆者も何か貢献しなければと思っていると、見上げたところにある掛け時計が止まっていた。たまたま電池を持ち合わせていた私は事務机の椅子を脚立にして時計を外し、交換しておいた。今でもその電池で動いているのだろうか…。

 人の温もりを感じることが難しい秘境駅が多い中、このような秘境駅があることもまた心強い。その心が続く限り、小和田駅はずっと存在し続けるはずだ。