四国地方


ここは駅を置くのに相応しい場所であるのか…

10.7.31執筆


駅名標の所在地表記は合併前のまま


改札口に掲げられた「おはようございます」の看板。
駅が賑わっていた時代を彷彿とさせる


待合室内の風景。駅スタンプが盗難に遭っていた


何とも言えない哀愁。しかしスイッチバックがある限り、この駅は健在なはずだ

 新幹線接続駅岡山から高知・宿毛へ延びる特急街道の途中に、とてつもない秘境駅があった―。それがここ、坪尻駅である。
 駅は四国山地を越える急勾配中にあり、スイッチバック構造となっていが、通過する列車はスイッチバックを行わない。普通列車も一部が通過し、停車する列車は大抵特急列車との退避・交換を行う。
 吉野川の支流に沿った谷の中に位置し、谷の上を並走する快走国道も一部がここから見えるだけ。駅前は草木が生い茂っており、結論を言ってしまえば“何も無い”。踏切を渡った駅舎の反対側には廃屋や倒された状態のオートバイ。日没が近く恐ろしくなり、駅周辺の散策にはそれ以上気が向かなかった。
 筆者は高知方面から岡山方面へ移動中に立ち寄ったが、訪問中、逆方向の列車である阿波池田行きが入線。友人と駅をおもしろがっていた筆者が列車の乗客にいかに見られていたかは述べるに値しない。
 駅舎を眺めてみると、管理は鉄道職員によってそれなりにされているようで、当時放送中で地元徳島を舞台としたNHK連続テレビ小説「ウェルかめ」のポスターもきちんと張られていた。気がつくと、きちんと待合室内の蛍光灯も灯っていた。改札口を見上げると、入口側に「おはようございます」、ホーム側に「おつかれさまでした」と手書きで書かれた木製看板が掲げられていた。開業当時は行商人や通学する学生たちで大いに賑わっていたそうで、駅舎と共にその時代を彷彿とさせるものの一つとなっている。
 駅ノートを書こうとそちらに目を向けると、「お知らせ」と書かれた紙が。地元の団体が製作した坪尻駅の駅スタンプが盗難にあったらしいのだ。人の目に触れない状態ではいけないと、代わりに作られたスタンプは阿波池田駅に置かれていた。道理ですでに自分のスタンプ帳に坪尻駅のスタンプがある訳だ。
 問題のスタンプは、後日、青森で発見されたというニュースを目にした。一部のファンがモラルのない行為をしているがために、我々鉄道ファン全体の信用が失墜することになりかねない。厳に慎んでもらいたいものだ。

 乗降客が減少すれば、保守が面倒になるが故廃止するのが先決で、実際にそのような理由で廃止された駅は数多い。しかし坪尻駅は、スイッチバック駅という特殊構造から、このような姿になった今でも駅としての機能を果たしてくれている。まだ利用客が「1人」いるらしく、そのためにあるといっても良いのだ。スタンプ盗難の話もそうだが、鉄道ファンが秘境駅を荒らしていくということは鉄道文化の衰退を必ずやもたらすものだと自覚したい。