四国地方


JRの駅舎。瓦葺きの堂々とした駅舎だ

11.2.21執筆


土電伊野電停とその周辺。待合室は2008年に建て替えられた


伊野車庫の線路跡(左)。舗道で完全に分断されている

 高知市の西郊に位置するいの町。土讃線の特急が停車するほか、市内からの路面電車もはるばるここまで乗り入れてくる。JR伊野駅の土電の最寄りは「伊野駅前」電停であるが、本稿では土電「伊野」電停についても取り上げる。
 筆者は、早朝宇和島を発ち、窪川で乗り継いで伊野へやってきた。このまま高知まで乗り続けてしまっても良かったのだが、路面電車に乗り慣れた広島にはない、単線の軌道を走る電車に乗ってみたいという好奇心から、予定を変えてここで列車を降りてしまった。このために土讃線全線乗破は達成できなかったが…。

 JRの駅舎は、瓦葺き屋根の立派な造り。ホームは、駅舎に横付けの単式ホームと島式ホーム1面の計2面3線の構造で、高知市街地の延長として賑わっている。
 ここで土電に乗り換えるには、駅前の「伊野駅前」から乗っても良かったが、まだ電車も来ないし始発から乗ってみようと、約200m西へ歩く。ここが土電の伊野電停。木造スタイルの風格ある待合室は2008年に建て替えられて完成したもの。まだ新品の木の色をしている。
 電停のすぐそばに、中途半端に切れた不思議な軌道がある。たどっていくと、坂を上り、その先が駐車場となって途切れていた。実はこれ、旧伊野車庫の線路跡。廃止後も何故かレールはそのまま、本線との間のみ舗装して分断させてある。

 明治37年(1904年)開業の土電は、現役の路面電車の中では日本最古の歴史を誇る路面電車である。伊野電停が開業したのは、明治41年(1908年)のこと。当地の伝統的工芸品として知られる土佐和紙を高知港へ運ぶため、貨物電車が活躍した。その役目は終戦と前後して終わりを告げるが、以後も市民の足として電車は存続、今に至っている。
 このように、貨物主体の路線として開業し、現在も旅客輸送線として使われる路線は数多いが、軌道でそのような例は全国的にも珍しい。歴史を今に伝えるレールに思いを馳せ、電車に揺られてみるのも悪くはないだろう。