中部地方


日常の駅の感覚からすると信じられない光景。頑丈なドアをくぐらないと電車に乗れない

10.10.14執筆


トンネルから待合室へ。構内は至る所にカビが


駅舎。地下の雰囲気をここから想像することはできない


地下へ通じる階段


地上部分では、写真や実物を使った沿線の観光案内を展示している


ひろびろとした地上待合室。設備が非常に充実している

 北陸方面と上越新幹線のアクセスをより向上させるために建設された新線「ほくほく線」。その途中に、驚くべきトンネル地下駅があった。それが、美佐島駅である。
 単線トンネルは列車が入ると断面ぎりぎりで、空気の逃げ道がないため内圧が急激に上昇する。トンネル内にホームがある美佐島駅はその風圧から乗客を守るため、待合室とホームとの間を分厚い金属製のドアで隔てている。また、トンネル内の気圧と地上の気圧が異なるため、この待合室と地上へ通じる階段との間にももうひとつドアが設置されている。この2枚のドアは同時には開かない構造になっていて、強風が吹くことを防いでいる。
 もともと、筒石駅のような手動ドアを設置する予定だったが、ドアを開け放った状態で列車の通過実験を行ったところ待合室ドアのガラスが粉砕。オートロックの自動ドアに変更された。ドアは列車到着後運転士が遠隔操作で解錠する仕様になっている。このドアのおかげで待合室が危険にさらされることはなくなったが、それでも隙間風までは防ぎきれず、列車通過時にはこれが強くなり室内中に爆音が響き渡る。その様子は下の動画でご覧いただこう。風圧によって頑丈であるはずの金属製ドアまでたわんでいることもよくわかる。



 駅でどうしてこんな爆音を聞かなくてはならないのか…同行者共々驚きを通り越していた。

 ところが、地上に上がってみると、今までの雰囲気とは裏腹の田園風景が広がる。周囲に人家が少ないためか秘境駅の感も漂う。駅舎も、ログハウス風の風情ある作りで、自動販売機まで完備されている。
 それだけではない。地上にもう一つある待合室が素晴らしいのだ。中は畳敷き、机や暖房機の設備まである。お茶まで用意してあり、自由に飲めるとのこと。地元の住民がここまで管理してくれていることに感激。観光でこの駅を利用することはないゆえ、地元の人プラス筆者のような“変な駅訪問人”のことも考えているのだろう。
 だが以前、ボヤ騒ぎがあって以降、この待合室が開く時間に制限が設けられてしまい、その時間を超過するとシャッターが降りるようになった。利用者が少ないからと悪事をはたらく人があったのだろうが、このようになってしまったことは非常に残念である。くれぐれも、畳に寝転がり寝入ってしまわぬように気をつけたい。
 待合室の外には、沿線の観光案内が行われている。沿線を紹介する写真にとどまらず、各種の美術作品まで展示されている。他のほくほく線の駅には降りたことがないためどのようになっているか不明なところであるが、観光目的での利用者が少ないのにも関わらずこの駅でどうしてここまで大胆な展示をしているのか、いささか疑問が残るところである。

 筆者は、2009年8月と2010年3月の2回この駅を訪問している。3月の上越地方はまだまだ積雪が残り、夏とは全く違う雰囲気を醸し出す。四季折々の移ろいとともにあり続ける美佐島駅、ぜひ一度訪問してみてはいかがだろうか。