関東地方


昭和初期の“面影”ではない。ここでは昭和がそのまま生きている

10.12.17執筆


古い看板と最新式自販機のミスマッチ…?


改札周り。昔ながらの形のラチには今にも駅員が現れそう


急カーブ上に設置されたホーム。足もとにご注意くださいw

 鶴見線と南武支線は今年で開業から80周年を迎えた。これを記念して、周辺のJRと京急、臨港バスが乗り放題になるフリーきっぷが発売された(12/19まで発売)と聞き、鶴見線全駅乗下車を兼ねて訪れてみた。
 前々からこの駅の高架下が凄いことは聞いていたのだが、いざ降りてみるとこれは本当に凄い。昭和初期に建設された高架線の下には、その当時に建てられた数々の商店が今もそのまま残っている。なかには実際にまだ営業している店もあり、改札正面の酒場では焼き鳥を買い求める客もみられ、当時の活気ぶりを彷彿とさせていた。
 米軍によって繰り返された空襲の標的は、当然都会だった。都会には、昭和であろうと平成であろうと、時代の先端をゆく流行があり、風景があり、建物がある。だが戦争のために、昭和初期という時代がどれだけ現代と隣り合わせであるかを教えてくれるはずだった建物は次々と焼き払われ、我々平成生まれの若者は、その頃の日本に対する正しい知識が不足しているように思われてならない。
 近くには戦時中の銃弾の痕も残っているそうで、空襲時もこの周辺は激しい攻撃を受けたと思われる。その中で、この高架下にあったこれらの建物たちは難を逃れ、昭和の町並みを今に伝える貴重な存在となっている。

 駅設備も、建設当初からほとんど変わることなく今に至っている。かつて駅員がきっぷを切っていたであろうラチには、きっぷ回収箱やSuica簡易端末、乗車駅証明書発行機といったものに取って代わり、なんだかごちゃごちゃしている。改札を通って階段を上ると、正面が扇町方面、右へ行くと鶴見方面へのホームへ出る階段になっており、鶴見方面ホームへの通路が昭和の町並みをオーバークロスしている。
 ホームは急カーブの上に設置されているため、鶴見方面ホームでは車両中央部に、扇町方面ホームでは車端部に大きな隙間が空く。筆者も一瞬転落しそうになりヒヤリとした。実際に駅を利用する人は周辺の住民であり、筆者のような不慣れな人間はそもそも乗降する理由がないと考えるのが妥当であろう。

 物事の効率化や近代化とは、裏を返せば既存のものを取り除くということである。古いものを捨て、新しいものをどんどん取り入れていればよいのだろうか。時代の最先端を行くことばかりが正しいことなのだろうか。国道駅は、そんな明治以降の日本人の観念を真っ向から否定する、非常に大きな存在である。レトロブームに乗る訳でもなく、ただただ当時のままを、「知る人ぞ知る」状態で残しておく。その価値が、分かる一位は分かる。文化遺産のあるべき形とは、このようなものではないのだろうか。